Masuk第87話 美月の手腕
嬉しい誤算があった。紗枝の部屋にはなんと監視カメラが設置されていたのだ。データを復元してみると、ちょうど岳が送金操作をしている映像が映っていた。
おそらく岳は自信過剰で、この映像さえ破壊してしまえば万事解決、誰もこのことに気づかないと思い込んでいたのだろう。
すべてのデータを復元したあと、美月は素早くコピーを取った。
復元したデータを、彼女は再び破損状態に戻した——ただし、今回は復元しやすい程度の破損にしておいた。
それから音もなくシステムから抜け出し、自分の活動痕跡をすべて消し去った。
……
「青木さん、ちょっとこれを見てください」
一人の警察官が、ちょうど通りかかった青木を
第164話 事故じゃない美月は彼の言葉を聞いて、思わず眉をひそめた。「私は悲しんでなんかいないわよ。ただ、さっきよりずいぶん空が曇ってきたなって思って……大雨が降るんじゃないかって」「……?」蓮は絶句した。胸いっぱいに詰め込んでいた慰めの言葉が、喉元でつかえて出てこなくなった。「悪かった。俺の早とちりだった」その言葉に、美月はぷっと吹き出した。「あなたって、本当に面白い人ね」彼女の心に残っていた陰鬱な気分は、あっという間に吹き飛んでしまった。蓮はニヤリと笑った。「美人の笑顔のためなら、命を懸けたって惜しくない」美月は一瞬で額に青筋を浮かべた。――そこまでしなくていいわよ。「ほら、お前も疲れただろ。ゆっくり寝てろ。着いたら起こしてやるから」昼間に寝ておけば、夜はゆっくり休める。いい考えだ。「うん」美月は頷いて、目を閉じた。もともと彼女は、蓮とあまり話したくなかった。また彼の口から、答えに困るようなことを言われるのが嫌だったからだ。ところが、目を閉じて間もなく、本当に眠ってしまった。蓮は、美月の呼吸が次第に穏やかになっていくのを聞きながら、運転手に車内の温度を快適な設定に調整するよう合図した。それから、美月の寝顔をじっと見つめた。
第163話 それは全部、嫁に上納しなきゃなその頃、蓮は自分が誰かに狙われていることなど、知る由もなかった。二人は墓参りを終えて山を下り、帰る準備をしていた。「もう帰るの? おじさんたちに、一応挨拶していかなくていい?」美月は蓮を横目で見てから、遠くの山へ視線を向けた。「先におじさんたちに挨拶して、それから出発しましょう」「それならいい」蓮に異論はなかった。早く帰るに越したことはない。何しろ、ここは空気がきれいなこと以外は……どうしたって帝都には敵わない。何より、あの宿のベッドが家のベッドに敵うはずもない。それに蓮は、指を折りながらひそかに計算していた。美月の「あれ」は、昨夜で終わったはずだ。今日には完全に終わっている。ここ数日ずっと我慢していたから、もうたっぷり溜まっている。――それは全部、上納しなきゃな。環境が良ければ、楽しみも倍増する。車は再び叔父の家の前に停まった。正人たちは外には出ていなかったが、車の音で二人が帰ってきたことに気づき、家の中から出てきた。ちょうど、美月と蓮が車から降りるところだった。「美月、墓参りは終わったのか? もう帰るのか?」美月は頷いた。「はい、おじさん、おばさん。向こうで用事があるので、そろそろ帰ります。また今度、時間があったら会いに来ますね」
第162話 いったいどれほどの魅力があるのか「彼女の酷い仕打ちは、今に始まったことじゃないわ。ただ、私が疲れただけ。もう彼女と揉めたくなくて、親子の縁を切ったの!」美月は淡々と言った。「おばさん、あの人のことはもう終わった話よ。もういいの」千恵は、美月がこれ以上話すつもりがないのを察して、その話題を切り上げた。「それで、二人は子どもを作るの?」あまりにも突然話題が変わったため、美月は危うく唾にむせそうになった。子ども?――いや、考えたことすらない。「……今はそのつもりはないわ。卒業してからね」「それもいいわね! 卒業してからにしましょう。あなたもまだ学校に通わないといけないんだし。そういえば、確か大学院にも進むつもりだったわよね? そっちも受けるの?」「受けるわ」実のところ、美月はそこまで気にしていなかった。何しろ、今は仕事を始めたばかりなのだ。大学院に進んだところで、仕事に支障が出るわけでもない。ただ、その分忙しくなるだけだ。千恵はその答えを聞いて、嬉しそうに頷いた。「それでいいのよ。知識っていうのはね……一度身につけたものは、全部自分の財産になるの。それがあなたをもっと優秀な人にしてくれる」美月の夫は確かに容姿がよく、条件も申し分ない。家柄だって悪くない。けれど、それだけで恋に浮かれて、自分を見失ってはいけない。
第161話 どうしてこんなに早く結婚したんだ?美月は家の中から出てきた女性を見ると、すぐに駆け寄った。「おばさん! 会いたかった!」その甘えた声を、ちょうど外のおばさんたちから解放された蓮が聞いてしまい、足取りが一瞬乱れた。いつもの身体能力と反射神経がなければ、今頃は転んでいただろう。――なんてこった!あんなふうに甘えて駄々をこねる女が、自分の知っている、しかも入籍までした妻だというのか?こんな美月の姿は、今まで一度も見たことがなかった。だからこそ、蓮は驚きのあまり呆然とするしかなかった。「美月、来るなら先に電話してくれればよかったのに。そうすれば、おばさんもあなたの好きな料理をもっとたくさん用意しておけたのに」橘千恵(たちばな ちえ)は、そう言って美月を軽く睨んだ。「だって、おばさんを驚かせたかったんだもん! だから、わざと言わなかったの!」その口調はとても甘く、蓮が一度も聞いたことのないものだった。ベッドの上でさえ、彼女はこんなふうに甘えた話し方をしたことはない。その瞬間、蓮はなぜか嫉妬してしまった。――ああ、もう! どうして俺の嫁は、俺にはこんなふうに甘えてくれないんだ?腹立たしい!「確かにサプライズね!こちらが叔父さんから聞いていた、ご主人?」千恵の視線が蓮に注がれた。彼を見た瞬間、その目がキラキラと輝いた。何しろ、本当に目を見張る
第160話 社交上手な蓮様美月は、叔父をここまで楽しませている蓮を見て……彼がこんなにも話上手だとは、今まで一度も知らなかった。この男の社交力は、本当に驚くべきものだ。もう三十分近く話し込んでいるというのに、二人はいまだに楽しそうに話し続けている。彼は以前から、こんなにも人付き合いが得意で、話好きだったのだろうか?ちょうどその時、蓮の視線がこちらに向いた。彼は立ち上がると、美月のもとへ歩み寄ってきた。「さっきおじさんが、今からうちに来いって言ってたぞ。昼飯は向こうで食べるらしい」正人は美月を見て、笑いながら言った。「美月、行こう! おばさんが家で待ってるよ。先に電話して買い物を頼んでおいたから、今頃は家で料理を作ってるはずだ!」美月は頷いた。「はい!」一行は外へ向かって歩き出した。蓮が美月の隣に並び、尋ねた。「車で行くか? それとも歩く?」「車で行きましょう!ここからおじさんの家まで歩くと五分くらいかかるし、車のほうが楽よ。おじさんの家で食事を済ませたら、そのまま宿に行けるし」「いいぞ、全部お前に任せる!」美月は彼を横目で見た。何もかも「お前の言う通りでいい」と言わんばかりの態度に、美月の心は複雑になった。――演技……?彼ほどの男が、わざわざこんな演技をする必要なんてあるのだろうか。まさか……彼は自分
第159話 俺こそが彼女の夫だ!美月はその言葉に、思わず蓮のほうを振り向いた。冗談を言っている様子ではない。美月は首を振った。「いいえ。夜は町の宿に泊まるわ」蓮が戸惑ったような顔をしているのを見て、美月はさらに説明を加えた。「掃除してもらってるのは一階と庭だけで、二階には……掃除の人も入れてないの。とても住める状態じゃないから、町の宿に泊まるの」「宿は設備が少し劣るけど、我慢してね」「もちろん、どうしても無理なら、午後のうちに帰ることもできるわ。その場合は、運転手さんに少し頑張ってもらうことになるけど」長距離の運転は疲れるが、幸い、どの車にも交代で運転できる者が乗っている。「宿に泊まるよ! 明日出発だ!」蓮がそう言うと、美月は頷いた。「分かったわ。じゃあ、あなたの言う通りにする」その言葉を聞いた蓮は嬉しそうに口元を緩めた。「それじゃ、今からどこへ行く?」「まず宿に行って……」美月が言い終える前に、聞き慣れた大きな声が響いた。「美月、帰ってきたのか?」美月が答える間もなく、その人物はすでに中へ入ってきていた。「おじさん」その呼び方で、蓮はこの人物が、例の叔父さんなのだと分かった。彼もすぐに声をかけた。







